特集
STARTUP DESIGN 第五弾は、インターネット上の経済活動をスムーズにする様々なサービスを開発している「BASE株式会社」で、デザイナー兼フロントエンジニアとして働く、藤田健太郎さんにお話を伺いました。編集・執筆 / AYUPY GOTO
藤田 健太郎ふじたけんたろう
BASE株式会社 デザイナー兼フロントエンジニア
1989年3月18日生まれ。千葉県船橋市出身。2011年 明治大学を卒業。
ネットショップ開設サービス「BASE」の機能改善と新規開発などデザイン全般を担当している。
母親世代でも簡単に開設できるオンラインショップ
インターネットで産業を最適化する。
― BASE株式会社は、どのような事業をおこなっている会社ですか。
藤田さん:「BASE」と「PAY.JP」のふたつのサービスを展開しているのですが、最初に立ち上げたのが、誰でも無料で簡単にネットショップを開設できる「BASE(ベイス)」というサービスです。インターネット初心者でも簡単にネットショップがつくれる工夫がつめこまれていて、好きなショップデザインにカスタマイズできる便利な機能も備わっています。現在では、手作りクラフト製品・食料品・ファッションアイテム・デジタルコンテンツなど、様々なアイテムが販売されています。毎月約1万店舗のネットショップが生まれるECサービスへと成長しているんです。
― 「BASE」はサービスが使いやすいだけでなく、デザインもおしゃれでかっこいいですよね!例えばですが、「BASE」のロゴデザインにはどのようなコンセプトが込められているのでしょうか。
藤田さん:このロゴは会社を立ち上げたばかりの時に協力してもらっていたデザイナーが制作したものです。社名でありサービス名でもある「BASE」のロゴには、“インターネット上の経済活動の拠点になる”という意味が込められています。また、このロゴデザインは、アメリカ先住民のテント「ティピ」をイメージしてつくられています。どこにでも持ち運べて家を建てることが出来るこのテントは、「誰でも簡単にインターネット上に経済活動の拠点を作れる」という象徴にもなっているのです。
― 藤田さん自身は、普段どのような業務をおこなっているのでしょうか。
藤田さん:基本的には「BASE」の新機能開発と、既存機能の改善を行っています。社内で上がってきた改善案をデザイナーチームで審議して、やるかやらないか、やるのであればどういうカタチで進めるのが良いか決めています。
「BASE」全体のアートディレクションやブランディングは、代表の鶴岡が全部統括して見ています。
藤田さんが携わったプロダクト
― 「BASE」のデザインの世界観は、鶴岡代表が決めているのですね。
藤田さん:会社を立ち上げたばかりのころは特に、鶴岡がデザインを判断して、僕らはそれに従って制作していました。当時は鶴岡がどのようなイメージを描いているのかわからなかったので、イエスノーで判断してつくっていましたが、最近はだいぶわかるようになってきたので、こちらが提案したもので進行しています。ただ、最終チェックはもらっていますね。
― 藤田さんは、今までどのようなプロダクトに携わってきたのでしょうか。
藤田さん:僕は「BASE」の開発にコミットしています。パッと見た感じですと、サービスのトップページはリリースした頃とほとんど変わっていないのですが、管理画面は少しづつ改善しています。 新機能開発で多いのは、「BASE」の特徴でもあるプラグインプラットフォームの「BASE Apps」です。基本的なECサイトの機能にプラスして、何か別の機能を付け加えたい時は「Apps」を使うことで機能拡張ができるようになっています。
エンジニアとデザイナーの職種は分かれていますが、その仕事分担は曖昧で、案件内容に合わせてお互いのスキルを見つつ、仕事を分担して進めています。コーディングまでは基本デザイナーが担当して、その他の開発はエンジニアに任せることが多いです。
デザイナーになるために会社を退職。
ネットで出会ったサービスを勝手に展開したことで
巡ってきたチャンス。
― いつからモノづくりのお仕事に興味を持ち始めたのでしょうか?
藤田さん:漠然と何かものをつくる仕事がしたいと考えはじめたのは、高校3年生の進学先を検討している時期でした。ロボット、建築、自動車などの機械開発に携わりたいと思い、大学は理工学部機械工学科に入学することにしたんです。ですが、入学してみるとイメージしていたものづくりとは全然違って、歯車の思考やネジのモーメントを学んだり、数式を沢山覚えたりして、実際何かをカタチにしたり、開発するところまではなかなかたどり着けなくて…。憧れていたものづくりと、あまりにもかけ離れていたので、そこで一度飽きてしまったんです。
― 確かにロボットや乗り物の開発となると、つくるまでに学なければいけないことが多そうですね。
藤田さん:そんな時に、大学の授業でプログラミングに出会ったんです。その授業ではプログラミングで計算機のシステムをつくったのですが、イメージしたプロダクトをすぐにカタチすることができるIT技術の可能性に感動して、ITサービスやウェブサイトの開発に興味を持つようになりました。そこから自主的に、ウェブサイトやブログのライキングサイトなどをつくることが多くなり、将来こういった仕事がしたいと思うようになりました。
― では、就職活動はIT企業を中心にエントリーしたのでしょうか。
藤田さん:就職活動って、就活生という立場を使っていろんな企業が覗ける、人生の中でも貴重な機会だと思うんですよ。なので、せっかくなら業界は絞らずにいろんな会社を覗いてみようと思い、銀行・不動産・IT・工場・メーカーなど、様々な業界の企業にエントリーしました。
就職活動をするなかで僕の進路を最も大きく変えたのが、とあるITベンチャー企業のインターンでした。そのインターンは、参加すると賞金がもらえたりと面白い特典が沢山ついていて、当時大学の部活のためにお金が必要だったこともあり、ラッキーと思って参加してみたんです。するとインターンに参加した流れで内定までもらってしまって、インターンとして働いてみた時の仕事環境も悪くなかったので、結局そのまま入社することにしたんです。その会社で特にしたいことがあるわけではなかったのですが、当時は“ベンチャー企業”という響きに憧れていたんですよね。
― 入社してみていかがでしたか。
藤田さん:新卒は入社してから約3ヶ月間の研修を受け、研修の成績順で入りたい部署や職種を選べるというルールがありました。僕は念願のエンジニアになることができたので良かったのですが、配属された部署がマッチしていなくて大変な思いをしました。配属された部署では、企業研修などを管理するシステムをつくっていたのですが、プロダクトのデザインが未熟すぎて初めて見た時はびっくりしました。使えればそれでいいといったレベルで開発されているようなサービスで、使いやすさやデザインの綺麗さは一切無視されていたので「もっとデザインを良くしたら、解決できることが沢山あるんだろうな」と、漠然と思っていました。前職にはデザイナーという職種の人がいなくて、デザイン知識の浅いエンジニアが、なんとなくカタチにしているような状態だったんですよね。その状況に嫌気がさして、デザインができるようになりたいという思いから、約1年働いて退職することにしました。それから、働いていた時代に貯めたお金でデザインの専門学校に入学して、一からデザインを学び直すことにしたんです。
― 勇気がいる決断ですね。そこからデザイナーの道に進むことになったのですね。
藤田さん:退職後は専門学校の講義で基礎的な技術を身につけつつ、自主制作をしたり外部からウェブ制作の依頼を受けたりして経験を積んでいました。そんなある日、連続起業家で有名な家入一真さんのSNSを見ていた時に、「BASE」をリリースしたことを知りました。「BASE」を初めて見た時、とても素敵なプロダクトだと思い感動しました。ですが、当時の「BASE」には開設されたショップの一覧が見れるような、ショッピングモールのような役割を果たすサイトがなかったんですよね。「BASE」代表の鶴岡のインタビューを見た時にも「モールはつくらない」と書かれていたので、それなら僕がつくってやろうと思って、勝手にいろんなショップの商品をスクレイピングしたキュレーションサイトをつくったんです。サイトには「お仕事募集中」と書いたバナーも貼っていました。すると後日、鶴岡がそのサイトを何らかのルートで発見したようで「オフィス遊びにきませんか」と、メッセージがきたんです。僕は慌てて「ごめんなさいすぐに行きます!」と返事を返して、その日のうちにオフィスに遊びに行きました。
― 鶴岡代表にサービスが見つかったのですね!
藤田さん:勝手に「BASE」のショップをまとめたので、怒られるんじゃないかと思ってビクビクしながらオフィスに遊びに行ったのですが、喋ったら意気投合して「BASEで働きませんか」と、会社のメンバーとして誘われたんです。まさかこんな展開になると思っていなかったのでびっくりしました(笑)そして、次の日から「BASE」で働くことになったんです。
― すごいスピード感ですね!専門学校にも通われてたと思いますが、学校はどうされたのでしょうか。
藤田さん:卒業まで残り2ヶ月だったので、専門学校で卒業制作を進めつつ、「BASE」のお仕事は業務委託で受けていました。そして専門学校を卒業した4月に、「BASE」初の社員として入社しました。
― なぜ「BASE」のお仕事に携わろうと思ったのでしょうか。
藤田さん:「BASE」のプロダクトを見た瞬間に、惚れ込んじゃったんですよね。無料でネットショップが開けるというコンセプトが、シンプルかつ今までになかったもので、今後多くの人に使われてスケールする事業だというのが目に見えて分かったので、関わらない理由がないと思いました。あとは、いろんな人に使ってもらえるサービスっていうのが良いですよね。北海道でも沖縄でも場所関係なく商品を売買できるっていうのはインターネットの強みなので、そういった点を含めてやりたかったことが出来ると思いました。
『BASE』のデザインのポイント
― 「BASE」をデザインをする上で、意識していることを教えてください。
藤田さん:“誰でも簡単にネットショップを開設できる”ようにするにはどのようなデザインが良いのか、具体的に言葉にして落とし込んでいます。余計な説明や装飾はつけず、1ページに載せられる情報と機能を絞り込み、可能なかぎりシンプルにしています。
POINT 01:マルチカラーは使わない
藤田さん:ウェブサイトの配色を決める際、「BASE」の場合はロゴがマルチカラーなので、使うのが難しいんですよね。ロゴに合わせてマルチカラーを全体に使用すると、カラフルすぎて目が痛くなってしまうので、例えば管理画面のページですとベースは基本モノトーン、ボタンなどは差し色としてグリーンを使用しています。上部に配置されたカラフルなロゴは、アクセントカラーになっています。
POINT 02:特殊機能だからこそ、使いやすいカタチ
藤田さん:BASEで開設できるショップは、こちらが提供しているデザイン素材をカスタマイズすることで作成できるようになっています。ですが、プログラミングを使って、オリジナルデザインでショップをつくりたいというユーザーさんもいらっしゃるので、html機能をつけて自由にコーディングを出来るようにしました。特別な機能だからこそ、管理画面のUIやバックエンドの仕組みづくりにこだわっています。
POINT 03:個性よりも、馴染みのあるデザインに
藤田さん:他社さんのサービスですと、独自のUIを制作するよう意識することが多いのではないかと思いますが、BASEの場合はより多くの方が利用できるサービスを目指しているので、ユーザーにとって馴染みのある、ネット上でよく見るような使いやすいUIを使用するようにしています。
最後にメッセージ
― 卒業してすぐ、スタートアップで働くことを学生クリエイターにすすめたいですか?
藤田さん:やりたいことがスタートアップにあればオススメしますが、憧れだけでスタートアップを選択するのはあまりおすすめできません(笑)。前職は激務でしたが、給料が高かったので気持ちを抑えられていた部分があったと思います。スタートアップに新卒入社すると、大企業と比べて給料は期待できないので、やりたいことがないと続かないと思います。
あと、スタートアップにしろ、大企業にしろ、どちらにしても自分で勉強できる人でないと仕事はできるようになりません。大企業は入社後、研修環境が整ってはいますが、フォーマット通りの内容をただ学んでも、自分で制作経験を積み重ねないと知識も技術も荒いままになってしまいます。スタートアップの場合だとなおさらですね、教育環境が整っている会社はほとんどないと思うので、自分で勉強できないと生き残れません。自身で学ぶ努力が必要です。
― BASEでクリエイターとして働く魅力を教えてください。
藤田さん:デザイナーもエンジニアリング・設計のところまで携われるところです。ウェブ・IT業界でも、ビジュアル制作しかできないデザイナーさんが結構いると思いますが、表面的なデザインだけではなく、プログラミングの技術を把握していたほうが、サービスの設計にも深く関われて、運用上の問題もスピーディに解決できると思います。
また、BASEはイベントやサービス開発を通して様々なプロダクトをアウトプットしているので、自ら手を上げればいろんな仕事やアートワークに携わることが出来ると思います。現状のメンバーですと、なかなか手が空いていないので難しいところもありますが(笑)助け合えば無理な話ではありません。
― どういった人と一緒に働きたいと思いますか。
藤田さん:クリエイター職に限らず、自ら問題点に気づき動ける人が良いです。仕事は基本的に降ってくるようになっていますが、それを待っているだけではサービスも会社も良くなりません。
あと、ユーザーさんのことを1番に考えて動ける人は良いですね。ユーザーさんが必要としているものであれば、イベントやサービスなど何でもつくりますし、必要だと感じたものをどんどん提案してほしいです。
― 最後にメッセージをお願いします。
藤田さん:好きなものづくりに関係する行動と制作を積み重ねれば、何かしら結果につながるので、止まらずに動き続けることが大事だと思います。また、クリエイターの方であれば、作っているプロダクトを外部の人に見せて、他人からの評価を受ける機会を自らつくるようにしてください。そうすることで、プロダクトの良し悪しを判断できる感覚が段々と身についてきて、世の中のためになるサービスをつくれるようになると思います。
― 藤田さんお話ありがとうございました!
(2015.11.23)
著者
後藤あゆみ
はたらくビビビット編集長。 フリーランスで“『ツクル』を仕事にしたい未来の子供たちのために。”を、コンセプトとして活動。クリエイター支援、スタートアップ支援を行っています。おばあちゃんになるまでに美術館をつくるのが夢です 。
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