2020年7月24日に開催される東京オリンピックまでついに1000日を切りました。オリンピックの主役は国別代表のスポーツ選手達とその競技ですが、国全体で取り組むオリンピックでは、様々な場面でその国のクリエイターが活躍していることをみなさんはご存知でしょうか。今回は、オリンピックなかでも重要な役割を果たしているデザインとアートの関係についてご紹介していきます。
編集・執筆 /RINA SAITO, AYUPY GOTO
目次
●日本のオリンピックの歴史
●開会式・閉会式に見るクリエイティビティ
●オリンピックの建築、国立競技場
●2020年、東京オリンピックの課題
●最後に
●日本のオリンピックの歴史
アジアで最初に開催された東京オリンピックは、終戦から20年ほど経った、1964年に開催されました。オリンピックの開催に合わせ、東京には首都高速道路や東海道新幹線が開通するなど、急速に都市が発展すると共に、戦後の復興を世界にアピールできるオリンピックの開催は、高度経済成長を後押ししていく、景気向上のため重要な一大イベントでもありました。
開会式が開催された10月10日は、1966年以降「体育の日」として国民の祝日に制定され、2000年以降は10月の第二月曜日となり、今でも10月の上旬は、多くの小中学校で運動会・体育祭が行われています。
もしかしたら、今ではすっかり定着している「スポーツの秋」というフレーズは、東京オリンピックが起源なのかもしれませんね。
世界大戦の影響
1936年、当時のドイツ・ベルリンで行われたオリンピックを最後に、世界大戦の影響で開催中止とされていましたが、第二次世界大戦終了後、1948年にロンドンでオリンピックが再開されました。敗戦国であるドイツと日本は、戦後すぐのロンドンオリンピックへの出場が認められず、次回開催を待たなければなりませんでした。
この人なしでは語れない!グラフィックデザインの礎を築いた
亀倉雄策(かめくら・ゆうさく)
<引用 | http://jpninfo.com/22242 >
この東京オリンピックのポスターは、デザインに関わる人であれば一度はどこかで見たことがあるのではないでしょうか。
このポスターを手がけた亀倉雄策(かめくら・ゆうさく)氏は、日本を代表するグラフィックデザイナーとなった人で、現在の中高の美術の教科書にも、絶対と言っていいほど作品が掲載されています。代表作には、グッドデザイン賞のロゴマークや、Nikon、NTTのロゴマークなど印象的なロゴが多くあり、現在も使われているロゴが多く、昭和のグラフィックデザインを牽引した人物であったことがよく分かります。
一番取りかかるのが遅かった?!
アートディレクターを務めた勝見勝のもと、当時の有名なデザイナー達を集めた指名性のコンペが行われ、満場一致で亀倉氏の作品に決まったと言われています。
しかし、エンブレムの締め切りを忘れていたため、直前に慌てて5、6分で作り上げたとか……。にわかに信じがたいですが、亀倉氏の作りあげたシンプルで力強いオリンピックエンブレム(ロゴ)には、21世紀になっても色褪せることない、強さと魅力があります。
<参考 | https://www.excite.co.jp/News/column_g/20151004/Litera_1554.html?_p=3 >
●開会式・閉会式に見るクリエイティビティ
世界から注目された!
リオオリンピック閉会式、日本の「フラッグハンドオーバーセレモニー」
人気キャラクターのマリオに扮した安倍首相が登場したことで話題となったのが記憶に新しい、リオオリンピック閉会式でのフラッグハンドオーバーセレモニー。
この8分間の映像を作ったのは、CM広告などのクリエイティブディレクターである佐々木宏(ささき・ひろし)氏、電通のクリエイティブディレクターの菅野薫(すがの・かおる)氏、Perfumeや2016年流行した「恋ダンス」でも知られる演出・振付家のMIKIKO氏、演出もされたミュージシャンの椎名林檎氏、の4名の日本を代表するクリエイターです。
最新技術のプロジェクションマッピングを用いたパフォーマンスや、冒頭の亀倉雄策氏へのオマージュが感じられる部分など、2020年の東京へ向けて世界へ日本をアピールできた作品だったと思います。
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過去のオリンピックにも注目!
北京オリンピック
北京オリンピックは、2008年に中国の北京で開催されたオリンピックで、開会式・閉会式では、現代美術家としても有名な蔡國強(ツァイ・ゴウ・チャン)がヴィジュアルディレクターを勤めており、打ち上げ花火の演出を担当しました。開会式は、会場である北京国家体育場に巨人が近づくいていく様子を、花火を用いて大きな足跡を空に浮かべた「ビッグ・フット」でした。蔡國強が世界で注目されるようになった、きっかけの作品です。
ロンドンオリンピック
ロンドンオリンピックは、2012年にイギリスの首都ロンドンで開催されたオリンピックです。開会式では、農村の暮らしから産業革命へと移り変わる様子を舞台装置とともにパフォーマンスで表現し、ダニエル・クレイグ氏が演じる「007」のジェームズ・ボンドが登場、本物の王室、エリザベス女王ご本人が出演され、
さらには会場上空のヘリコプターからパラシュートで飛び降りる、という本人出演の映像とスタントをうまく組み合わせた演出が話題となりました。
そして、ハリーポッターで有名なJ・K・ローリング氏による、ジェームス・マシュー・バリー著書「ピーター・パン」の朗読からはじまる、夢とファンタジーの世界が展開するなど、イギリスを代表する文化作品や歴史が、要素としてふんだんに取り入れられた演出になっています。
●オリンピックの建築、国立競技場
代々木国立競技場
代々木国立競技場は、日本を代表する建築家である丹下健三(たんげ・けんぞう)氏によって設計され、丹下さんの代表作となった建築です。1964年の東京オリンピック開催に備えて建設され、吊り橋のような吊り構造が用いられているのが特徴となっています。現在でも「代々木第一・第二体育館」の名称でも親しまれ、ミュージシャンのライブイベントや格闘技の会場として利用され、オリンピック終了後も様々な用途で利用されています。
北京国家体育場
<引用 | https://ja.wikipedia.org/wiki/北京国家体育場#/media/File:Beijing_national_stadium.jpg >
北京国家体育場は、イギリスのテート・モダンなどを設計した、スイス出身のヘルツォーク&ド・ムーロン氏によって設計され、2008年の北京オリンピックに合わせて建設されました。著名な現代アーティストのドナルド・ジャッドや、ヨーゼフ・ボイスなどから影響を受けていると述べており、この北京国家体育場も、中国出身の艾未未(アイ・ウェイウェイ)とのコラボレーションで設計をしているのが特徴です。細い線が絡まるように全体の形を作っている様子から、「鳥の巣」という通称で、多くの人に知られている建築となっています。
●2020年、東京オリンピックの問題
エンブレム(ロゴ)問題
<引用 | http://www.art-annual.jp/news-exhibition/news/52173/ >
▲ 佐野研二郎氏による旧エンブレム
<引用 | https://tokyo2020.jp/jp/games/emblem/ >
▲ 野老朝雄氏による現エンブレム
日本中で大きな話題となっていた佐野研二郎(さの・けんじろう)氏によるオリンピックエンブレムのデザインの類似性が議論となりました。
ベルギーの「リエージュ劇場」のロゴをデザインした、作者のオリビエ・ドビ氏本人からデザインへの指摘が始まり、裁判所を通じて国際オリンピック委員会(IOC)へ差し止めの請求を行いました。その後、本人によるエンブレムデザインの制作過程を説明する会見を行い、盗作疑惑について強く否定していました。
結果として佐野氏制作のエンブレムの使用は中止となり、新たにコンペが行われ、野老朝雄(ところ・あさお)氏による「組市松紋(くみいちまつもん)」という市松模様を用いたロゴが公式のエンブレムとなっています。
この問題では、作品の著作権、「オリジナリティ」についても考えるきっかけになったと私は思っています。シンプルなデザインほど、似ているように見える作品が多く存在するのではないか?見た目は似ていても、制作プロセスを見ると、全く別の視点と展開で考えられている作品……それらは同じなのか?と。あなたはどのように考え、感じ取りましたか?
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新国立競技場の問題
<引用 | http://www.huffingtonpost.jp/2015/09/02/ryuji-fujimura-talks-on-new-national-stadium_n_8031084.html >
▲ ザハ・ハディト氏による旧設計案
<引用 | hhttps://www.jpnsport.go.jp/newstadium/ >
▲ 隈研吾氏による現設計案
東京オリンピックを見据え、国立霞ヶ丘陸上競技場を取り壊し、跡地に再建している新国立競技場は、2012年に開催された「新国立競技場基本構想国際デザインコンクール」で、当初はユニークなデザインで世界的にも知られているザハ・ハディト氏の設計案が最優秀賞に選ばれ、建設計画が勧められていました。ですが、2013年に東京オリンピックが開催決定後、2520億円もの建設費がかかることがわかり、事態は一転、白紙撤回となりました。
オリンピックが迫る中、工期が懸念されつつも、新たにコンペが行われ、隈研吾(くま・けんご)氏の木を多く使うデザインが新建設案として選ばれました。今まさに建設中の新国立競技場ですが、“違法に伐採を行うとされるマレーシアの企業の木材を使用している箇所が発覚した”というニュースや、“工期に追われ人手が足りず、過酷な労働環境・長時間の残業などが原因で、現場監督の男性(23)が自殺する”という痛ましいニュースなどが報道され、私たちが普段抱える現代の日本の問題が、オリンピックという大きな取り組みの中で、如実に表れてきていると思います。
●最後に
戦後2回目の夏季オリンピックを迎える2020年。オリンピックには、社会全体が関わり、大勢のクリエイターによって作られていることがお分かりいただけたかと思います。
段々と盛り上がりを見せる東京の街を、わくわくした気持ちで眺めるのも良いですが、物を作るクリエイターなら、私たちが今直面している問題についても考えなくてはいけないと思います。特に、佐野研二郎氏のロゴについての問題は、創作活動をする人なら全員起こり得る問題として、今一度身近に考えてみてもらえると嬉しいです。
(2017.12.12)
著者
はたらくビビビット
ポートフォリオとデザインのリファレンスメディア